風鈴

猫 サイエンス 哲学

45分

残業で遅くなってしまったので、指定席特急の中で夕飯を食べながら帰宅する。パサついたコンビニのサンドイッチをホットコーヒーで流し込み、ひといき。
時間を金で買う。おおよそ45分間。
座るために電車を何本かやり過ごす時間、帰宅してから夕飯を食べる時間、いつもの電車では停車する駅を飛ばす時間。速く帰宅できる分延びる睡眠時間。ストレスの軽減も買う。帰宅するまで空腹に耐えるストレス、座席確保の争いと混雑でギスギスする車内に息を殺すストレス。数百円で買えるメリット。明日の朝も早い。

通勤電車では往路も復路も窓の外の景色を眺めることがない日々を過ごしている。大きな橋を渡るときに河面を反射する朝陽にふと顔を上げるくらいだ。アオサギが優雅に滑空する様を見ることができるかもしれないと期待する。今なら見る余裕があるのだけれど、窓の外は沈黙している。時折フラッシュのように各駅停車駅のホームが煌めき、遠ざかってゆく。

斜め後ろのスーツの集団が缶ビールを開けながら談話している。人間工学的には45分に1回休憩が理想的なのだと力説する。カシュッ。ゴクリ。チャイムが鳴り、給食を配り、食べ終えたら校庭へ駆け出す友人たちを見送り読みさしの本を開く小学生の私。夜を映す車窓に、やはり本を開く私が浮かび上がる。人間工学的に理想的でありたい。45分ごとに刻まれる生活。時間割を眺めながら忘れた教科書を借りにゆきたい。

何千何万の45分間を見送ってきた。
有意義だと思われる時間も、そうとは決められない時間も数多く流れてきた。
今夜買った45分はなかなか悪くない。いつかまた、今夜のことを思い出す夜があるだろう。そんな45分間、1回、休み。

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